アドベンチャー ハーフビルド
11月になったけれど、未だ土地賃借の契約を交わしていない。
どのような順番で進めればいいのか、とその建築士に行程を聞いても、毎回違う答えだった。私が理解したのは(1)水が出る事、地質調査の結果大丈夫だということを確認する(2)建築確認の許可を取ること(3)土地賃借契約を交わす(4)工事…
水が確保できなかったり、地盤が非常に悪いところを借りても仕方がない、という理由でこのような順番にしたのだが、さすが地震国、地盤の考え方が違う。地盤が悪いから家を建てない、のではなく、地盤が悪ければ改良して家を建てる、のが日本のやり方なのだ。次に、建物のみを対象とした建築確認に疑問に思った夫は「地すべりや土砂崩れが起こりそうなところでも、地主と施主の意思だけで、県は建築許可を出すのか?何に対する許可なんだ?安全は天井の高さだの耐震だけではないでしょう?土台の下の土地の安全を誰がどう判断して保証するの?どういうことなの?」と尋ねてきた。 確かに。誰が判断するかといえば、建築士。最終的に結論を出すのは施主だから、つまり私だ。
2人ほど大工さんの候補がいて、一人は在来工法、一人はログ専門だけれども2X4であればできるということ。在来工法の大工さんは、ハーフビルドつまり我々がやれるところは人件費削減のために一緒に作業をして行くというやりかたを渋った。理由は、ハーフビルドをやる、といったお客が結局何もせず(出来ず)嫌な思いをした経験があることと、素人には危険な作業がたくさんあるから手を出さない方がよい、という見解からだった。もう一人は「ハーフビルド大歓迎」で”一緒に出来る”感があり、半日、作業を指導してもらって残りを我々がやるというようなやり方にも賛成してくれた。日給はこの地方の平均的値段ということだったがもう一人の大工よりも安かった。私が「400万円以内で建てたい」と言えば、誰もが真を丸くしたが、誰も完全にNOと否定はしない。「さては、可能なんだな」と私は安易にほくそ笑んだ。
アヴァンチュリエール(冒険家)とはほど遠い私は、セルフビルドを諦め、意見も主張できてそこそこ手も出せる(と想像する)ハーフビルドに決めていた。貸家が見つからなかった今、家主になる選択をした私は、余りひどい物を作らなければ、ココが嫌になった時売れるかもしれないし… と少々欲も出ていた。
この11月の時点で、ラフより少し気合いの入った設計図ができていた。私はグラフィックデザイナーであるので、コンピュータを使った作図は難しくないが、マックユーザーであることからCADなどのフリーの設計ソフトは使用不可だった。建築図面に関してネットで毎夜検索し、設計用ではないが使い慣れたソフトでチャッチャと描けば、それらしく見えた。 仲介の建築士は「あなたたちお金がそんなにないんだったら、無駄に使う事はないっぺよ」と理解を示すかと思えば、質問や疑問を投げかけると不機嫌になったり答えを渋ったりしたので、どんどん事事が不透明に曖昧になっていった。私の描いたラフを建築許可が出るように清書する設計料、仲介料、書類費… などなど素人で見当もつかないので見積もりを再三頼んだが、それが提出される事は一度も無かった。足元を見られているのか、最終的にライトな仕事であれば安く請求してもいい、とご心労いただいているのだろうか。
12月、世界中皆が忙しい最中、痺れを切らした私は、直接会ってスケジュール調整と最初の設計図と見積もりをしっかり頼んで正月を迎えた。
正月の間に2X4住宅のマニュアル本を購入し、セルフビルド、エコ住宅などの本を市の図書館から借りて読み漁った。
そして… 正月明けに仲介人からの電話は… 来ない。現在の私の予定: 1月15日 設計図→ 2月15日 建築許可申請 → 3月15日 契約書作成 → 4月05日 工事開始 → 7月01日 引越し。この段階で疑問符がつくかもしれないが、工務店でも中に入っていれば可能だったのかもしれない。この概算も、具体的な作業や流れをわからずして出した夢のようなスケジュールだったのだ。
この日程で計画が進んでいれば、大忙しだったでだろう1月〜2月。何か問題が発生したのだろうか、書類を作るのも大変だろうから催促の電話をするのは止めておこう、と、建築確認に必要な書類も知らなかった私は悶々とする日々を過ごした。何度か建築士に連絡を入れ「忙しくって」が何度か続いたが、しまいには電話に出なくなった。 その間、デッドストックの建材屋やホームセンターに行ってみたり、建築の本を読んだり、いわゆる準備期間になった。
その建築士を紹介した人に文句を言う事にした。その日はちょうど地質調査も頼んでいたので、紹介者宅に寄って泣きを入れる。 調査には地主もやってきて、5−6人でわいわい始まった。スェーデン式サウンディング法というボーリングで細い金属棒の地上部に重りを乗せて回転し何センチ貫入するか、という単純な仕組みの調査だった。最初金属棒はスイスイ土中に入って、1m−2m−3mと徐々に速度を落とした。調査結果から石や岩盤など固いところもないが、グズグズの柔な土でもない。しかし思っていたより柔らかい、という答えだった。
先ほどの泣き入れから1時間ほどして、建築士が慌ててやってきた。なんと設計図を持って。すでにできていたんだ。
調査の間中、私が彼と会話をすると「もう彼を信じない方がいい」と忠言していた夫は怪訝な顔をした。そして調査の結果がそんなに芳しい土地ではないことがわかると、それまで「大丈夫、ここは絶対崩れることはないっぺよ」と言っていた建築士が、急に「じゃ布基礎じゃなくてベタにすれいい」と意見を翻した。