山に響く音
基礎造りの作業の人4人ほどで、ちょうどコンパネでコンクリ枠を組んでいた頃だっただろうか、敷地内のビニルハウス近くの高い木の上から「グルグル、グルグル」と明らかに4−5匹のカラスなのだが、いつもとは違う声で鳴く、というよりしゃべっていた。そしてしばらくして地震があった。
立っていて感じた揺れは相当大きい。
毎日現場と家との100km近くを行き来している間に、様々な現象を観察する事ができた。
鳥というのはよく遊ぶ生き物だけれど、車の前に飛び出す、横切る、急に逃げる、他の鳥と争って襲撃している場面に出くわすと、その日にあまり嬉しくない訪問があったり、ちょっとした諍いや喧嘩が起こったりした。
前にも書いたが雉が庭先近くまでえさを探しに来ていると、しばらくして地震が起こったことが3回もあった。車の往来中に生きているたぬきを見ると、その先、霧の濃い道になったことも何回かあった。
残念なことに3−4日に1匹くらいの割合で、その動物たちが車に轢かれているのだ。(ああ我らドライバーたちよ、スピードを出し過ぎないこと!)
道路のど真ん中にゴミ袋か?と思って急ブレーキをかけるとカモのつがいだった。眼が見えない様子でパッシングしても微動だにせず、クラクションを鳴らすと慌てて飛び去った。
迷信だといわれるかもしれないが、生き物がソワソワする日は何かいつもと違う自然の現象が働いているのだろう。
地震の前後は集落から犬の鳴き声が続くし、遠くからだんだん大きくなって襲ってくるような地鳴りは、都会暮らししかしたことのなかったわたしには、初めての音の体験だった。
冬には木々の葉が落ちて、遠くの山並みや下の里山も見えるようになる。夜には、集落や遠くの赤信号が何分か置きに緑や黄色に変わる、筑波山のアンテナの後ろの空に広がるつくばや土浦の昼間のような街の灯りが、少々人里離れた山のこちらの月明かりと競っている。 そして梅が散り桜が咲いた。我々の土地の山桜も密かに咲いていた。夫が下草を刈ってきれいにしてくれたお陰で、ソメイヨシノに比べればかなり脇役の地味なピンクの花をつける山桜が複数存在する事に今やっと気がついた。
正面の標高700mの山頂には風車・風力発電機2機、冬の風物詩とまではいかないが、木の葉が落ちると遠く現れる景観の要素の1つだ。1機は住民の騒音クレームによって停止している。企業のお遊びだったようなので、誰も損得は無いのかもしれない。発展・未来の象徴かもしれなかった最新エコ機、時も場所も悪かったのだろう。
その設置の根拠や目的に必要性もないらしいから、景観に関しても、騒音や電磁波の迷惑を被った(未だに被っている?)住民には真に残念だ。
田舎を車で走っていると火の見やぐらを見かける。昔はこれが一番背の高い建造物だった。現在では携帯電話や電波機器のアンテナ基地局が目立って高くそびえ立つ。
日本の公共衛生の基準値や規制がどのようになっているかは、その問題毎に細かく検証しなければいけないのだが、恐ろしい光景は日本のあちらこちらに見られる。恐らく危険だと思われる工場や原発や化学研究所やガスタンクと住宅の距離が近過ぎる気がするのだ。ギュウギュウに2階建ての家が並ぶベッドタウンが実家の市内にはたくさんある。2階に干された洗濯物の間から除くのは青空でも松の葉の緑でもなく、薄緑色のまぁ〜るいガスタンクだ。巨大なまぁ〜るいタンクが壁を隔てたあまりにすぐで、その光景におののいてしまった。
電磁波の話を少しするならば、友人のマンションの屋上に設置計画のあったアンテナ基地の反対意見として、フランスのアンテナ状況について少々調べたのがきっかけで、少しだけ詳しくなった。
端的にいえば、フランスでも目覚ましい興隆で携帯電話は普及し、アンテナ濫立となった。その間、認定されない謎の頭痛やアレルギー、説明できないイライラ、不眠。未来の発展を願って子供たちのいる学校施設の屋上や至近地に建ったアンテナのせいで(状況、条件など鑑みてほぼまちがいない)ひとクラスの中に同時に脳腫瘍や白血病、または集団ショック状態などが発生してしまったことを受けて、現在は予防原則も踏まえて、対アンテナ基地局訴訟が各地で起き、次々とアンテナ解体撤去に至っている。
山の裏の北側遠くにある採石場の発破のサイレン、パンパンと軽快な猟銃の響き、何ヶ月か前からはじまった隣山の東南斜面を別荘地にする計画だかで道の舗装工事をするバックホーの低音が下から聞こえて来る。近くの建材屋さんの山からだ。
ここにアンテナが建ちませんように。いや断固として反対しよう。
密猟者によると、この山には中国から飛んで来るオオルリがいるそう。
夫は尾の長い青い鳥を見たらしい。
私は尾の長い…リスを見たよ。